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『僕』が目覚めたのは、会議室だった。

 何の変哲もない、会議室。テーブル1つ、椅子が何脚か。

 ホワイトボードがある、何の変哲もない、ただの会議室。

 

 けれどそこには、窓はなかった。

 

「お目覚め?」

 

 寝転がったままの僕の頭上から、声が降ってきた。

 きれいな声だ。

 慌てて飛び起きてみれば、後頭部が傷んだ。なんだ?

 そっと指先で触れてみても特に外傷はなくて、コブもできていなかった頭をさすりながら声の方向に向き直ってみる。

 

「おはよう、お寝坊さん。こんなところで眠れるなんて、大層な精神ね?」

 

 半ば呆れ気味な声にあわてて立ち上がる。

 対して広くもない会議室に、ざっと……6名ほどだろうか。

 遠巻きに僕を見る人、明らかに訝しがる人、面白そうにニヤつきながら見てる人……そんな彼らの視線が一方向――つまり、僕――に集中していた。

 

「あはは! おはよう眠り姫さん? まあ、今が何時か昼か夜かもわかりゃしないんだけどね? でも頭数は多いほうがいいと思わない? 思うよね? ……じゃあ、君も早く参加しよう! この部屋から出る方法を模索する会に!」

 

 一方的にまくしたてられた言葉に、思考が追いつかない。

 

「?? 意味がちょっとよく、わからないんだけど……」

「私達も、分かっていないわよ。分かっているのは、ここに閉じ込められたっていう、事実だけね」

「……閉じ込められた?」

「鍵があかないの。だから『閉じ込められた』……ここまではいい?」

「あ、ええと……はい」

 

 鍵が開かない、だから閉じ込められた。

 まあ、そうか。

 ……ん?

 

「いやいやいや、内側から開かないドアなんてないですよね?」

「ええ。だから閉じ込められたと解釈したの。正しいわよね?」

「正しいですね……」

 

 ズキズキずる頭が、僕に告げる。痛みを。

 絶望とかそういう言葉はまだ頭にない。ゲームみたいだなとは、思った。

 ……ゲーム、という言葉に違和感を感じながら。

 

「さ、とりあえずここから出る方法を探しましょう。きみ、名前は?」

「名前……」

 

 言葉に詰まる。

 名前。

 言葉にしようと口にしようとしても、その答えは頭の中からすっと出てくることはなかった。

 

「……き、記憶が……」

「ええ~~!? そういうお約束とかマジいらないんですけど! まあでもちなみにアタシたちもなんだけどね!!」

「あんたらもかよ!」

 

 間髪入れずに突っ込んでしまった言葉に、みんなからこいつもかよという視線を投げつけられた。どうやら先程のギャルめいた言葉を使う女の子と同様に、みんな記憶がないらしい。……自分も、含めて。

 

「……とりあえず、ええと、なんでも、いいです……名前」

「そうね、じゃあきみのことはその名札の通りに呼ぶわ」

「……名札」

 

 お腹のあたりを指さされて気づいた。首飾りのような紐にくくられた名前を。

 気づけばみんな首から下げている。

 

「よろしくね。さ、探しましょう。ここから、出る方法を」



 

―――― ただ、ここから出る。それだけの、つもりだったのに。

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